雪山の頂上で相棒を抱きかかえながら居眠りをするように目を閉じていると、ふいにザクザクと賑やかな足音が聞こえる。 これはグリーンじゃないな、と予測しながら重たい目蓋を持ち上げれば、レッドの元までもうひとふんばりぐらい先の距離に、ともすれば雪と同化していまいそうな真っ白い帽子がひょこひょこと揺れているのが見えた。 例え何度負けようとも、何度でも挑んで来ようとする負けん気の強い少女。 ギリギリまで追いつめられるような感触を味わわせてくれる彼女の相手をするのは、レッドとしてもやぶさかではない。 今日はどんなバトルを見せてくれるのかな、そんなことを思いながら彼女の到着を待っていると。 「レッドさん!私とダブルバトルをしましょう!」 「・・・は?」 レッドの姿をみとめて告げたコトネの第一声は、予想とは些か異なるものだった。 遡ること、一日。 「は?レッドに勝ったこと?」 「あるんですか?どうなんですか?」 あからさまなほど胡乱気な視線を受け止めつつ、それでもなおコトネは首を傾ぐ。 再戦なら受けるけど、ヤマブキまで行くのが面倒だからお前が来い。そう言われて赴いたトキワジムにはグリーン以外のトレーナーが何故か誰もおらず、きょとんと首を傾げれば今日は休みだとさも当たり前だと言わんばかりの答えが返ったのが、一時間と少し前。(後々分かったことだけれど、その日はどうやらシロガネ山に登るために休みにしていたらしい) そして、コトネのためだけにジムで待っていてくれたらしいグリーンにからくも勝利を収めて、ふいに浮かんだ疑問をそのままぶつけてみたのが、一分ほど前のこと。 「そんなこと聞いてどうすんだ・・・?そりゃああるけど」 「え!嘘、あるんですか!?」 「・・・。お前、俺をバカにしに来たのか?」 後先を考えずに叫んでしまってから「しまった」と思っても、もう遅い。 レッドに勝ったことぐらいありますよと何故か丁寧に言い直したグリーンは、若干イラッとした顔でコトネの頬を抓り上げた。 文字通り、口は災いの元、だ。 痛いです痛いですと訴えても離してもらえず、グリーンの気が済むまで解放されることのなかった頬は、鏡で見たらきっと真っ赤だったに違いない。 「まぁ強いて言うなら、シングルのフルバトルよりは、ダブルの方が勝率いいな」 「へぇ・・・レッドさん、ダブルバトル苦手なんですか?」 「いや、そういうわけじゃねぇと思うけど。・・・っておい、コトネ聞いてるか?おーい」 自分で言うのも何だけれど、ダブルバトルには少しばかり自信があって、それならもしかするといつもより少しぐらいは有利に戦えるかもしれない。 そう思って挑んだダブルバトルだった。 ・・・のに。 「グリーンさん、嘘吐きです・・・」 「グリーン?」 結果はむしろ、いつもよりも大敗を喫したような状況で、思わず漏れた八つ当たりの言葉。 唐突に飛び出た名前を不思議そうな顔で復唱するレッドに、トキワのジムでグリーンから話を聞いたのだと言えば、あぁなるほどと少しばかり楽しそうな笑みが返る。 「そうだね。ダブルバトルだと、俺の方がちょっと負け越しかな」 ホントにちょっとだけだけどね、と念を押すように口にしたレッドの姿が、ふいにグリーンの姿と重なる。 びっくりして慌てて瞬きを繰り返してみても、今この場にグリーンの姿があるはずもなく、そこにいるのは相変わらずレッドだった。(当たり前だけれど) 今まで二人が似ていると思ったことなんて一度もなかったし、むしろ正反対のような印象を抱いてすらいたぐらいだったからとても意外で、だけど納得出来たこともあった。 二人が幼馴染でライバルだって言うのは、本当に本当なんだ、と。 「俺はいつだって全力で戦うだけだけど、ジムリーダーはそうじゃないから」 「え?」 「ジムリーダーの務めは、ただ力任せに相手を負かすことじゃないんだって」 淡々とした口調でそう話したレッドは、肩に乗ったピカチュウの頭を撫でて、笑う。 きょとんと首を傾げているコトネが何を思っているのか、まるで全てお見通しであるかのように。 「グリーンは、強いよ」 その笑みは、少しだけ意地悪に見えた。 「・・・・・・知ってますよ、ちゃんと」 「そっか」 「この次は、負けません」 「そう。俺も、負けないけどね」
グリーンは強いよ、だからライバルなんだ。 |
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