シロガネ山の頂、大粒の雪が吹き荒れる中。 「グリーンさんはレッドさんのことが好きなんだと思うの」 「えっ・・・!」 洞窟の一歩手前にしゃがみこんでいたコトネが、真剣な表情と声で突然そう切り出した。 それがまるで、明日には世界が滅びるのだとでも言うかのような調子だったために思わずビクッと肩を震わせてしまったのだけれど、よく考えてみれば彼女はそんなこと一言も言っていない。 驚いて損をした気分になる。 「無駄にシリアス調にするのやめてよ・・・怖いから。どうしたの、いきなり」 「グリーンさんは、レッドさんのことが好きなんだと思うの」 ポケモンバトルの時以上に真剣な光を宿した瞳は、意外な真実に気付いちゃったの!と言わんばかりだ。寒さにかじかむ手を擦りつつ、ヒビキとしてはそれがどうしたんだろうと首を傾げるより他にない。 「いや、それはさっき聞いたよ。だから、それがどうしたの?」 「ヒビキ君はその事実に何とも思わないの!?」 「えぇ・・・?何とも思わないのって言われても・・・友達を好きなのは良いことだよね、ぐらいしか」 「バカ!ヒビキ君のバカ!!」 「何で僕が責められるの!?」 「そんなんじゃあヒビキ君には一生彼女なんて出来ないんだからね!」 「何なのさ突然!」 良く分からないけれど、今日のコトネはこの上なく理不尽だ。 気が立っている猫のようで、扱いにとても困る。 「ヒビキ君は、もしも私がシロガネ山にこもったら、こんなに頻繁に様子見に来る?」 ふくっと頬を膨らせた彼女は、真っ直ぐ洞窟の中を指差す。 洞窟の中にはいつの間にかここを住処にしているレッドと、その幼馴染でトキワジムのリーダーのグリーンがいるはずだった。実を言えば、レッドにバトルを申し込みに来てみたらグリーンと一緒にいるのが見えてしまい、何故か慌てた様子のコトネに腕を引っ張られて洞窟の外にしゃがみこんでいるのだ。 本当にもう、これは一体どういう状況なんだろうか。 「え?まさかコトネちゃんまでそんなことを・・・?」 「もしもだってばー」 もしもと前置かれても、彼女ならばやりかねないとも思う。 そういう意味では、時折想像の斜め上を行く暴挙をやらかす幼馴染を持つグリーンには、何となく共感めいたものを感じていた。(一方的に) 「うーん・・・心配だから様子は見に来ると思うよ。危ないし。ていうか、やっぱり女の子がこんなところに独りで篭もるのは危ないと思う」 「それじゃあたとえ話にならないじゃない!」 「そんなこと言われても・・・」 困り切って眉を下げていると、憤然とした様子でとにかく!と仕切り直すように啖呵を切る。 「あれは友達とか幼馴染を大事にしてるなんて次元じゃないでしょう!」 「じゃあ何?」 「もう、ヒビキ君鈍すぎ・・・ずばり、恋よ」 こい。こい。 びしぃっと人差し指を向けられながら、聞き慣れない単語を頭の中で繰り返す。いつもであれば人を指さしちゃいけないんだよと窘めるところだけれど、今は多分それどころではない。 (魚の鯉じゃないよね、なんて言ったらきっと怒るだろうな) バカとか鈍いとか罵られるだけでは済まされないだろう。 さすがに、そこまでは鈍くないつもりだ。 「恋・・・」 「そう。あの優しさは、好きな人に対する優しさに違いないと思うの」 「・・・それは、グリーンさんがレッドさんに片想いをしてるってこと?」 「きっとそういうことね!」 目をキラキラと輝かせた彼女は、これからはグリーンさんを応援しなくちゃとやたらと張り切っている。 困ったことになったかもしれないと思いつつも、『片想い』という単語に何だかやたらと切なくなってしまった。 (これからは、グリーンさんに優しくしよう) 「中に入ってこないで何やってんのかと思えば」 「あれは一応内緒話のつもりなんだろうね」 「そういう話は当人がいない場所か、せめて当人に聞こえない音量でこっそりすべきだ、と誰かアイツらに教えてやってくれ・・・」 恥ずかしい奴らだなと溜め息を零すと、隣にいる幼馴染が小さく笑う。 その表情が些か楽しげで、アイツらのバカ話も珍しいものが見られたからまぁいいかと許せる気になってしまった。現金で結構。 「ねぇ、グリーン俺のこと好きだったの?」 「・・・。お前、それ物凄い白々しいからな」 知ってるくせに、とグリーンが呟けば、知ってるよとレッドが頷く。 自分が優位に立っているみたいに、鷹揚に。 昔から知ってたよと言わんばかりに、嫣然と。 「お前こそ、俺のこと好きなくせして」 「でもあの二人は気付いてないみたいだよ」 「二人まとめて鈍いよなぁ」 顔を見合わせて笑いながら、周りからは片想いに見えていてもまぁいいかと思った。 お互いが知っているのだから、それでいい。
この後、コトネさんは本気でグリーンさんの応援を始めます(笑 |
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