「グリーン、頼んでたものもらいに来たわよー」 部屋の主の許可を取ることなくさっさとドアノブを回して扉を開けると、書類仕事から顔を上げたグリーンと目が合うよりも先に、部屋の中央に鎮座しているソファに視線が縫い止められる。 室内にはグリーン以外いないものだと、勝手に思い込んでいたのだけれど。 「・・・あら、レッドじゃない。珍しい」 「せめてノックぐらいはしろよ・・・」 「アンタとアタシの仲じゃない」 「どんな仲だよ。ただ面倒なだけだろうが」 つい立ち尽くしてしまった扉の前からようやく一歩を踏み出して、眉間に皺を寄せたトキワジムのジムリーダーがぶつくさと文句を言うのには構わずに、真っ直ぐ部屋の中央へと歩む。 「何なんだ、今日は。来客日和なのか?」 些かうんざりしたように零された溜め息。そんなものは私の知ったことではないとこっそり思いながら、適当に今日はいい天気だものねと相槌を打って、レッドが眠るソファの向かいに腰を下ろした。 気を許した人間以外の前ではどうしても眠れないのだと言ったレッドは、けれどグリーンとカスミの話し声で起きるような気配はない。 グリーンだけでなく、カスミもまたレッドの中で内側の人間として認識されているということなのだろう。 「で、頼んでたものは?」 「あぁ、卵ならまだじいちゃんとこだよ」 「まさか、ジムの仕事が忙しいのにわざわざハナダから来てあげたっていう私に対して、手ぶらで帰れなんて言わないわよね?」 「分かった分かった、取りに行って来ればいいんだろ」 諸手を挙げて降参の意を示したグリーンは、あっさり立ちあがった。昔に比べると随分素直になったなぁと思ってしまうのは、トレーナーとして駈け出したばかりの頃の記憶が抜けないからなのだろう。 本当に生意気なただのガキだと思っていたのに、そのガキはいつの間にかチャンピオンになり、カントー最強のジムリーダーになっている。 それだけの月日が流れたのだ。 グリーンやレッドと初めて出逢ったあの頃から、たくさんの月日が。 「あぁそうだ、カスミ」 「なぁに?」 部屋を出るためにドアノブに手を掛けかけたグリーンが、ふと何かを思い出したように肩越しに振り返る。ことんと首を傾げながら続く言葉を待てば柔らかな視線を向けられて、話の内容は分からないのに何を思っているのかだけが分かってしまった。 なんて、単純なんだろう。 「そいつ起きたら、そこの冷蔵庫の中にあるの適当に食わせてやってよ」 「はいはい。相変わらず甲斐甲斐しいのね」 肩を竦めて、からかうように笑う。そんなんじゃねーよ、と不本意そうに言葉を返すグリーンの表情は、どう見てもカスミの言葉を否定しきれる顔じゃない。 レッドが大切だと、言っている顔だ。 「放っておいたら死んでました、なんて状況になったらシャレになんねーだろ」 「ま、そういうことにしといてあげるわ」 「そりゃどうも。すぐ帰って来るから、ちょっと待ってろ」 ひらひら、と背中を向けて振られた手。ぱたん、と扉が閉まると完全に見えなくなって、何となく気が抜けてしまう。あーあ、とわざと声に出しながらソファの背もたれに完全に背中を預けても、カスミの独り言を聞く人間はこの場にいない。 グリーンの口から直接聞いたことはなかった。 レッドの口からも、聞いたことはない。 だけど、分かってしまうのだから、どうしようもないことだ。 「ほーんと、嫌になっちゃう」 カスミがすぐ傍にいても、起きないレッド。 その寝顔をじっと見つめながら、深く溜め息を零す。 内側にいられることは、本来ならば喜ぶべきはずのことだ。けれど、内側にいられるからこそ、あと少し届かない距離に一層焦れてしまう。憧れてしまう。 私では無理なのか、と。 (・・・もしもキスで起こせたら、私は王子様になれるかしら?) そんなことを真剣に考えてしまいそうになる自分がおかしくて、一人小さく笑ってみた。 わたしのアクセラレータ あぁ、でもそれじゃあ本末転倒だ。(だって私は、ハナダのマーメイドだもの!)
リクエストより、「グリーン→←レッド←かすみちゃんのお話」 |
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