初めに言い訳をしておくと、別に忘れていたわけではない。 ただちょっと、あまりに切羽詰って何処かに飛んでいってしまっていただけだ。 だから別に、忘れていたわけでは、ない。 (・・・あれ、何であんなところにナゾノクサ?) ようやくお月見山を抜けて、ハナダシティのポケモンセンターへ向かう途中。遠くに見えるハナダの名所らしい橋の欄干に、ポケモンの姿を見つけた。 草むらではない場所にポケモンが歩いているのは珍しいことだろう。傍にトレーナーらしき人影がないのなら、なおさら。 「危なっかしい歩き方だなぁ・・・」 ふらふらと橋の手すりを危なっかしげに進んでいく姿を見ていると、いつか落ちてしまうのではないかと想像してしまって、自然と足が止まって目が離せなくなる。モンスターボールの中で休んでいる彼らが、お月見山を通って来たことで疲れているのは分かっているのだけれど、ここで見なかったフリなんて出来るはずもない。 みんなごめん、と胸の内で謝りながら進む方角を転換して橋へ向かう。その間も、ナゾノクサはちょこちょこと橋の手すりをゆっくりとした(けれど危なげな)歩みで進んでいく。 立ち止まってくれると、嬉しいんだけどなぁ、なんて思いながら足運びを速めたその瞬間、ふわりと柔らかな風が吹いた。 同時に、頭上の葉っぱで風を受け止めた小さな身体が、ふらりと傾ぐ。 「っ!」 危ない、と声にならない悲鳴を呑みこんで、必死に伸ばした手。 ギリギリのところでナゾノクサの足を捉えたことにほっと顔を綻ばせたのも束の間、ガクンと身体が大きく揺れた。 (・・・あ、しまった) 僅かに感じた浮遊感はあっという間に消え失せて、バシャーン、と水が高く上がる。 思い切り水を口に含んでしまって、あぁ川に落ちたんだと理解したその瞬間、そういえば自分は泳げなかったのだという事実に思い至り、これはまずいことになったのかもしれない、とそんなことを悠長に思った。 一度口に含んでしまったらもうどうしようもなく、せめて何とかもがいてみようかと努力はしてみたものの、ナゾノクサを抱え込んでいるためにそれもままならない。 せめて、助けたナゾノクサだけでも水面に上げられないだろうかと思っても、やはり身体が思うように動かない。 この先どうしようか、なんて考える余裕もなくぼんやり遠のいていく意識の中、レッド、と名前を呼ぶ声が聞こえた。(ような、気がした) ぐわんぐわん、と何かが揺れる。 身体中が沼か何かに飲み込まれているかのように重たく、その感覚がひどく気持ち悪い。 ぺちぺちと何かを叩くような音が聞こえて、同時に頬に痛みを覚える。 何だろう、とは思うのだけれど、目を開けるのがとても億劫で、本当はこのまま眠ってしまいたかった。けれど。 「レッド!おい、レッド!!」 耳に届く声が、あまりにも必死で。 「・・・・・・?」 ゆるゆると重たいまぶたを持ち上げると、真っ青な空を背景にグリーンの顔が視界いっぱいに広がる。 顔が近い、と思ったけれど、うまく声が出てこない。 生きてるか、と問いかけられても、生きてるよと答える事も出来ない。 心配かけるのは本意じゃないなぁと思いながら、仕方なく返事の代わりにやたらと近くにある頭をぽんぽんと叩いてみる。 「あぁ、もう・・・びびった・・・」 ハァハァと肩で息をしながら、グリーンがぐったりと草むらに腰を下ろす。言いたいことはあるのに、声を掛けるどころか息をするのも辛くて。 とにかく何とか呼吸を整えようと肺を動かすことに専念していると、いつの間にかレッドの腕からすり抜けていたらしいナゾノクサが、頭の葉っぱを揺らしてレッドの頬に触れた。 (なんだろう・・・ありがとうって、言ってるのかな) よく分からないけれど、何だか嬉しくなって葉っぱに触れながらにこりと微笑む。 助けられて、良かった。グリーンが来てくれなかったら、抱え込んだナゾノクサ共々溺れてそのまま死んでしまっていたかもしれない。 「泳げないの忘れてたのかよ、バカかお前は。っていうか、俺がたまたま通りかかったから良かったようなものの、助けてくれる人間がいなかったらお前死んでたぞ!?」 レッドが生きていることを確認出来てほっとしたらしいグリーンは、大体お前はいつも無謀なんだとか少しは後先考えろとか、今更思い出したかのように文句を並べ始めている。 いつものグリーンだなぁ、と思った。 少しお節介で、世話焼きで、何だかんだ言っても最後には結局レッドを助けてくれる。 「たまたま通りかかるとか・・・もしかして、ストーカー?」 「なわけあるか!!」 「冗談だよ。ごめん、ありがとう」 「え、いや、別に・・・」 素直に感謝をしてみると照れたように顔を赤くしてどもるのが、何だかおかしかった。 かえるの子ではありませんので
リクエストより、「溺れているのを助ける」 |
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