その日は、久々の一日丸々オフだった。
午前中は少しゆっくりしてその後シロガネ山へ登ろうとか杜撰ではあれどそんな風に一日の予定を立てて、その予定通りゆったりベッドの上でごろごろ転がっていた、朝のこと。

「グリーンさあん!いらっしゃいますかー!」

ぴんぽんぴんぽんとけたたましく鳴らされるチャイムの音と共に投げて寄越される声。
聞き覚えのあるその声の主なんて、窓から外を見て確認するまでもなく分かる。いくら分かりたくなかったと嘆いて見せても、グリーンのそんな悲しみを声の主が汲んでくれるはずもなかった。

「グリーンさーん、居るのは分かってるんですよー!早く起きてくださーい!」
「お休みだからって朝寝坊はよくないですよー!」
「あんまり無視するようなら、勝手に侵入しますよー!」
「え!それはダメだよコトネちゃん!」

後輩共の合唱と、それを追うチャイムの輪唱。
なんていうか、御近所迷惑とかそういう言葉を、アイツらの脳に叩きこんでやりたくなる。

「だああぁ!!うっせえよ!一度鳴らしゃあ分かるっての!!」

バン、と大きな音を立てたドアも、限りなく御近所迷惑なのだろうけれど、この際なりふり構ってはいられなかった。
これ以上の騒音は、謹んで御免被りたい。(とは言え、迷惑するほどのご近所様が、この町にはあまりいないのだけれど)

「あ、ようやく出てきた!グリーンさんおはようございます!」
「あんまり出てこないから、一日オフで家にいるはずだなんて嘘なのかと思ってました」

にこにこと元気そうな笑みを浮かべて大声でまくしたてる少年少女は、文字通り元気を持て余しているに違いない。腹立たしいほどの無邪気さは、恐らく若さゆえだ。若さって無茶苦茶だなぁ、と思ってしまったグリーンから、失われて久しいものの一つなんだろう。

「用件を聞く前に、一つ聞いておきたいことがある」
「はい?」
「誰だ、そんな情報お前らにやったの」
「え?えーと・・・誰だったっけ、ヒビキ君」
「確か、エリートトレーナーのヨシノリさん?」
「そうか。アイツか」

明日、朝一でしめよう。
名前と一緒に恨みを心に書き留めて、無邪気に笑う後輩達をどうするべきか、改めて見下ろす。一度ジムに寄った上でわざわざ家にまでやって来た彼らを追い返すのは、さすがに忍びないというか、大人げないだろう。となると、ゆっくりするつもりでいた午前中を潰して彼らに付き合うぐらいは、すべきか。

「で、何しに来たんだ?お前ら」
「その前に、今日のスペシャルゲストの紹介です!」
「は?ゲスト?」

満面の笑みを湛えながら、開けたドアの死角に手を伸ばしたコトネが引っ張って来たのは、

「じゃーん!シロガネ山の亡霊こと、レッドさんでーす!」
「や、グリーン」

今はシロガネ山で寝泊りをしているはずの、幼馴染だった。

「・・・・・・いやいやいやいや!や、じゃねーだろ!何してんだお前!?」
「いい反応です、グリーンさん!」
「さすがです、グリーンさん!」
「うるせぇよお前ら!つーか、レッドまで引っ張り出して来て、何がしたいんだ?」

グリーンの反応を楽しむような二人の笑い声をぴしゃりと一喝して、とりあえず深々と溜め息を零してから首を傾ぐと、途端に二人の目がキラキラッと光りだす。

「ダブルバトルをしませんか!」
「・・・は?」
「グリーンさんとレッドさんに勝ちたくて、僕ら頑張ってきたんですよー」

突然の申し出にきょとんとしていると、レッドが隣へ寄って来て僕らとバトルしたいんだってさ、と付け加えるように口にする。何の補足にもなっていなかったけれど、もうそんなところに突っ込む気も起きやしない。

「へぇ。まさか俺らにバトルを挑むなんて無謀な奴、いるとは思わなかったな」

だね、と小さく微笑むレッドの肩にはいつも通りピカチュウが乗っていて、楽しそうに笑っている。
レッドが楽しそうなのが嬉しいんだろうなぁと考えながら、それは確かに嬉しいことだなぁと思った。

「なぁ、お前ら。当然、手加減なんかしなくていいんだろ?」
「当たり前ですよ!そんなのなくたって、勝って見せますから。ね、ヒビキ君?」
「うん、がんばるよ」
「ヒビキ君、そんな弱気じゃダメよ!もっとガツガツ行かなくちゃっ」
「ガツガツって・・・」

呆れているようにも困っているようにも見える顔で、ヒビキが笑う。けれど瞳は、コトネと全く同じだ。二人の気持ちは、間違いなく一緒なんだろう。
二人とも、グリーンとレッドに勝つことしか考えていない。

「あの目、好きだな」

ぽそりと呟いた声に俺もと頷いてから、ようやくレッドが山を下りてきた理由に気付く。
キラキラしてて、強さに一途で、何処までも真っ直ぐな目。あんな目を向けられたら、バトルの申し入れを蹴るなんて出来るはずがない。きっと、そういうことなんだろう。

「あの子達見てると、昔のグリーンを思い出す」
「そうか?俺は昔のお前を思い出すよ」


・・・きっと、そういうことなんだ。





後輩達の無謀






リクエストより、『ヒビキくんとコトネちゃん+グリレ みたいなお話』
リクエストありがとうございました!!

久々のオフをレッドと過ごせるのなら何だって構わないのです。

2010/11/16



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