「グリーンさん、再戦しましょう!!」 「・・・・・・」 あぁもしかしてこいつは暇なのかなぁとか、また何を意気込んでるんだかなぁとか、色々思うところはあったけれど、そのどれを口にすればいいのか分からずに口を閉ざす。 何とか視線で伝わってくれないだろうかと思っても、爛々と瞳を輝かせている少女にはまるで伝わってくれないらしい。 ・・・あぁ、なんて面倒臭い。 「お前さぁ、俺が日曜の夜以外忙しいって言ってるのは覚えられないわけ?」 「もちろん覚えてますよ!馬鹿にしないでください!」 「そうか。じゃあ質問。今日は何曜日?」 「水曜日です!」 「だな。はいお疲れ様さようなら」 「あぁ!!ダメです!今日はどうしてもグリーンさんと戦いたいんですっ」 大きな帽子を頭に乗せた少女の目の前でバタンと扉を閉じて見せたかったのだけれど、ガッと凄まじい力で反抗される。いくらグリーンが手加減していたとはいえ、この細腕の何処に一体こんな力が隠されているのか。 私は本気です、という意思表明のつもりのようで、じっとグリーンを見上げてくる視線はいつもよりも鋭く見えた。 「私に勝ったら、素敵情報を差し上げますよ?」 「素敵情報?」 「ちなみに私は、昨日レッドさんに挑戦してきたばかりです」 にっこり笑う彼女は、さぁどうだと言わんばかりに表情を輝かせている。 そんな挑発に乗るほど愚かしくはないけれど、これはもう応えるしかないんだろうなぁ、と諦めるほかない。これは多分、何と答えたとしても彼女が引くことはないだろう。 それならば、いっそ。 「それは当然、俺が欲しいと思えるような情報なんだろうな?」 「自信ありますよ。グリーンさんは、絶対に欲しがる。でも、わざと負けてあげる気はありませんからね!」 「上等だ。入れよ、たまにはジムで相手してやる」 顔にぺたりと笑みを貼り付けながら、後悔するなよ?とだけ言い置いた。 しませんよ、なんて勝ち気に微笑む少女に、ジムリーダーの本気を見せてやろうじゃないか。 孤独からの必勝法 シロガネ山の夕暮れ時。 雪に覆われて薄暗い空が赤く染まって美しい、なんてことがないのが少し残念だと思う。もう少し晴れている日なら夕焼けも見られるらしいけれど、その日は生憎と天気がとても悪かった。 「その質問、前にもされた気がするね」 「あ、やっぱり覚えてましたか」 呆れたような表情を薄く浮かべたレッドに見つめられて、悪戯が見つかった子供みたいに笑って誤魔化す。さり気無さを装って今度こそはぐらかされずに最後まで答えをもらおうと思っていたのだけれど、どうやら最初の時点で躓いてしまったらしい。 が、ここで諦めては女が廃るというものだ。 「だって、気になるんです。レッドさんの周りにはポケモン達がいるけど、でも、それでも寂しいと思う時はあると思うんです。なのに、」 「要は、この間の答えじゃ納得出来なかったってことだね」 「う・・・」 何故一人で戦えるのか、そう問いかけたコトネに、レッドは確かに答えを示した。 『帰りたい場所があるから』という答えが不満だったわけではない。実際、一度はその答えで納得したし、それは確かに励みになるものなのだろう。 だけど、それだけで済ませてしまうには、この場所はあまりに寂しい。 「・・・寂しいと思ったら、その分だけ会った時に嬉しいよ」 「その人に、毎日会いたいって思いません?」 「思っても、言わない。強くなりたいって思うのも本当だからね。・・・良いことを教えてあげようか」 「え?」 殆ど動かない表情が、僅かに優しい笑みに彩られる。突然のことに呆けていると、レッドはコトネの返事を待つことなく『良いこと』を耳元に吹き込んで、踵を返してしまった。 今更遅いと分かっていても思わず耳を押さえて、頬に集まる熱が早く鎮まればいいのにと願う。 (どうしよう・・・わかっちゃった) そっと囁かれた言葉を、きっとコトネは忘れない。 『好きだから、負けたくない。それはきっと、寂しさよりも強い感情だよ』
グリーンさんに負けたコトネちゃんは、一体何を教えてあげるつもりなんだろう(お前がそれを言うのか |
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