ゴミ捨て当番の仕事を全うするために、校舎裏が見えるその廊下を通ったのは、単なる偶然だった。
外から幼馴染の声が聞こえたのも、偶然で。
その声につられるように窓の下を覗いたことだけが、レッドの意思によるものだった。

(あぁ、やっぱりグリーンだ)

二階の窓から覗き込むと、幼馴染の姿が見える。彼の真正面には見知らぬ女の子がひどく真剣な表情で立っていて、例えば声が聞こえなくても容易に会話の内容は察せられただろう。
残念なことに、彼女の声もグリーンの声も、レッドの耳にしっかり届いてしまっていたけれど。
そもそも、何故か開いたままだった窓が悪い。レッドは、たまたま聞こえてしまっただけだ。悪気なんてこれっぽっちもない。

「すみませんでした、先輩」
「いや。ごめんな、ありがとう」

ぺこりと頭を下げて、今にも泣き出しそうな顔をしながら女の子はグリーンに背を向ける。その背を追うでもなく見送って、溜め息を零したグリーンはどことなく疲れているように見えた。

「モテモテだね、先輩」
「覗き見かよ」
「聞かれたくないなら、近くの窓がちゃんと閉まってるか確認してよ」
「それ、俺のせいか?」
「俺のせいでもない」

きぱっと言い切ると、グリーンは何か言いたげに顔を顰めて、けれど声をあげることなく深々と溜め息を零す。どうやらその吐息に文句全てを逃がしたらしい。
色々言いたいことがあっても、この距離での会話は疲れるのだろう。レッドがいるのは二階なのだから、当然だ。

「ちょっと待ってて」
「は?・・・まさか、おいレッド!やめろバカ!!」

まずはぽーんとゴミの入った袋を放り投げる。下にはグリーン以外いないから、人にぶつかる心配はないだろう。グリーンの上げる制止の声が聞こえるけれど、全て無視を決め込んで窓枠に掛けた手に思い切り力を込めた。
ふわっと宙に身体が浮いたのは、ほんの一瞬。

「やぁ」
「じゃねえだろ!やめろって言ったじゃねーか!ていうか階段を使え!階段を!」
「面倒くさい」

すとん、と花壇の土の上に着地すると、先ほどまでの疲れは何処へ消えたのか、グリーンがものすごい勢いで怒鳴り始める。怒られるために下りてきたわけじゃないのだけれど、レッドの都合などはお構いなしのようだった。

「春から数えると、何人目だっけ」
「さぁ。今年に入ってから増えたからなぁ。覚えてないよ」
「他の男子が聞いたら怒りだしそうなセリフだね」
「仕方ないだろ」

あっさりと切り捨てるように呟くグリーンは、確かに女子生徒に人気が高い。
頭がよく運動神経もよく、顔立ちも整っている上に生徒会長なんて目立つ地位に立っている。これほど色々なものが揃っている人材が身近にいることなんてそうそうないのよ、とクラスの女子が語っているのを聞いたことはあったけれど、どう答えたのかは忘れてしまった。

「グリーンなんかの何処がいいのかな」
「お前は俺の何処がいいわけ?」
「さぁ。気の迷いか何かじゃない?」
「他の女子が聞いたら怒りだしそうなセリフだな」
「仕方ないよ」

直前の会話をなぞるように受け答えると、グリーンはなるほどと呆れたように笑う。それから、そんなもんだな、と納得しているのか諦めているのかどちらとも取れるようなことを呟いて、落ちていたゴミ袋を掴んで歩き出した。

「・・・あ」
「とっととコレ捨てて、帰ろうぜレッド」

くるんと肩越しに振り返った笑みにうんと頷いて、隣に並ぶ。

(・・・グリーンだから、で十分かな)

理由、なんて。そうたくさん必要ない。
別にたくさんのものを持ってなくてもいいのになぁ、と思った。





恋人の理由






二階にいたレッドと庭にいたグリーンさんの図が、とてもロミジュリだなぁと思いました。(…

2010/10/12



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