(・・・何に使うんだかなぁ)

手に持った紙とペンを一瞥して、首を傾げる。既に何度考えてみたか分からないその問いは、一向に回答を得られる気配を見せない。

『次来る時は、紙とペンを持ってきて』

真顔でそう言った幼馴染が何を考えているかなど、分かるはずもない。その時はつい勢いで分かったと頷いてしまったけれど、実際には何も分かってなどいなかった。
今までに紙とペンが必要だったことなどなかったのに、一体何に必要なのだろう。
・・・などと、性懲りもなく首を捻ってしまうのだけれど、結局は捻りっ放しで終わってしまう。
どうせ結論など出ないのだからいい加減悩むのは止めようと諦めるように大きく息を吐いて、用途の知れない紙とペンをいつもの荷物(食料と薬の類だ)に纏めて放り込む。

どの道それは、レッドに会えば分かることなのだから。





雪の酷くない時間を狙ってシロガネ山を登ると、何をしているのかは知らないがレッドが寒空の下にぽつんと佇んでいる。
当然いつものように半袖で、真っ白な息を吐き出しながら。
あの馬鹿、と思う。
ついこの間も風邪をひいたくせに、まだあんな無茶をして。いつもいつもグリーンが助けてやれるわけではないのに、本当にいつになったら自分を大事にすることを覚えてくれるのだろう。
そんなことを延々考えながら「何してんだ」と叫んでみたら、少し驚いた顔をして「そろそろ来るかなって思ってた」と笑った。
グリーンがレッドに勝てないのは、今に始まったことではない。


「ほら、これでいいか?」
「ありがとう」

言われたとおりの物を差し出すと、こくりと頷いてマジックペンのキャップをきゅぽんと外す。・・・が、どうやら紙の大きさが気に入らなかったらしく、一度ペンを戻して紙を四分の一の大きさに切り取った。

「で?何に使うんだ、これ」
「もうすぐ七夕だろ」
「は?」
「違った?」

きょとんと首を傾げる幼馴染の話が一瞬理解出来なくて、呼吸を忘れる。
今、レッドは何と言ったのだろうか。

(たなばた・・・?七夕って、あの七夕・・・?)

あのも何も他の七夕など知らないのだけれど、その単語があまりにレッドに似つかわしくないというか、何というか。
そもそも、正月に始まりバレンタインやら誕生日やらクリスマスなどは当然のこと、一年の最後の大晦日までイベント事はすっかり忘れ去っているものだと思っていた(もちろん、去年の七夕はスルーだった)幼馴染の口から、『七夕』という単語が飛び出ること自体が晴天の霹靂だった。

「・・・イベント事なんてまるで興味なかったくせに、何で七夕なんか」
「この間、コトネが挑戦しに来た時に言ってた」
「あぁ、なるほど」

女の子はイベント好きだよね、と淡々と呟きながら何事かを紙に綴っていく。しっかりとグリーンに見えないよう、死角で。
というか、その願い事を書いた紙切れは一体何処に吊るすつもりでいるのだろう。放っておくと下の方にある木に括りつけていそうで恐ろしい。

(七夕、ね・・・)

一年に一度しか会うことの許されない夫婦の、そのたった一度の日。
空が晴れていなければその一度すら叶わなくなる夫婦に、レッドは何を願う気なのだろう。どうせ何かを願うなら、夫婦が再会している方がきっといいに決まっている。

(うん、絶対そうだ)

雪山の空では織姫と彦星の再会は叶わないけれど、マサラの空はきっと晴れている。
だからまぁ、とりあえず。

「帰ろうぜ、レッド」
「え?」
「折角の七夕なんだから、たまには星の見えるところにいろよ」
「・・・あぁ」


なるほどと頷いたレッドの手を引いて、晴れた空の下へ。





ささのはさらさら





『雪の日も、会えますように』






ぎりぎり間に合った!
「願い事なんてお前にあんの?」
「あるよ。教えないけど」
「・・・。まぁいいけど、笹はどうすんの」
「タマムシに笹が飾ってあるって言ってたから、持ってって」
「はぁ?」

2010/7/7



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