あぁしまった。 図書室の窓から空を見上げて、重たく溜め息を零しながら思う。 「雨、酷くなってきたな・・・」 授業が終わった一時間ほど前はぽつぽつと降る程度だった雨が、いつの間にか途切れる事のない糸のようになって地面に真っ直ぐ向かっている。 朝、登校前に天気予報を見なかった自分が悪いのだけれど、昨日の予報では一日中曇りのはずだったのだから、悪いのは自分ばかりでもないだろう。(と、信じたい) (グリーン、傘持ってたっけ・・・?) ぼんやり朝のことを思い返してみるけれど、いつも通りグリーンの自転車の後ろに乗って登校したのだから、恐らくグリーンも雨が降るなんて知らなかったに違いない。傘は確か、持っていなかったはずだ。 この雨では、自転車で帰るのは諦めた方が良いだろう。 とは思いつつ、レッドもグリーンも傘を持っていないのならさっさと自転車で帰ってしまった方が良いような気もして。 どうしようかなぁ、とぼんやり外の様子を眺めながら考えていると、図書室の扉がガラッと音を立てて開いた。 「っ、ワリ、遅くなった・・・!」 「走ってきたの?お疲れ様」 テーブルの上に乗せていた鞄を取って、扉に手を掛けたまま呼吸を整えるグリーンの元へ歩み寄りながら笑いかける。 待たせては悪いとこうやって走ってきてくれたのだろうけれど、別に気になんかしないからゆっくり歩いてきても良かったのに、と思った。 生徒会の仕事があるから少し遅くなる、と言った幼馴染に、じゃあ待っていると答えたのはレッドだったのだから。 生徒会長が生徒会の仕事を行うのは当然で、それと同じレベルでレッドがグリーンを待つというのは自然な話だった。だから、『少し』が少し伸びたところで変わらない。 ・・・変わらないけれど、レッドのためにわざわざ走ってくれたんだと思うと、何となくこそばゆくなる。(なんて、口にはしないけれど) 「大丈夫?」 「おー、平気だ」 ようやく息の整ったグリーンがじゃあ帰るかと笑うのにそうだねと返して、図書室の扉を閉める。カウンター席にいた図書委員の女の子は、にっこり笑ってレッドを見送ってくれた。 「雨、酷いね」 「そうだな。まだ小雨のうちに先帰っとけば良かったのに。そしたらそんなに濡れなかっただろ」 「あぁ」 「・・・そんな考えが全くなかったようで、俺は嬉しいよ」 呆れたような顔をして、けれどグリーンは薄く笑う。 指摘されて始めてその選択肢に気付いたけれど、最初から提示されていたところで結果は恐らく変わらなかっただろう。 いつも一緒に帰っている幼馴染を置いて帰るのは、やっぱり忍びない。 「帰りは歩きでいいよな?どうせお前傘持ってねーんだろ?」 「え?グリーン、傘持ってたの?」 「おう。教室に置きっ放しだったのが役に立った」 「なるほど」 確かに、グリーンの右手には朝は持っていなかったはずの水色の傘が握られている。忘れ物と言う名の置き傘は、こういう非常時に役に立つということなんだろう。良い教訓だ。 「まぁちょっとは濡れるだろうけど、それぐらいは勘弁しろよな」 「ん」 バッと音を立てて水色の花が咲く。 図書室で見た時よりも勢いを増した雨がぱたたたと傘に体当たりをする音を聞きながら、出来るだけ濡れない様に身を寄せ合って歩くのは何だか内緒話をしているかのようでわくわくした。
相合傘って、ドキドキしますね。見ているこっちが、ドキドキしますよね。←ん? |
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