ずっと言えずにいる言葉がある。 「よお、レッド」 「また来たの?」 片手をあげながら洞窟の奥に座り込んでいた幼馴染に声をかけると、眉を若干顰めたレッドが振り返る。食糧やら薬やらを携えてわざわざ会いに来てやっている幼馴染に対して向けるべき顔じゃない。 笑顔で迎えろなんて天変地異を願うようなことは言わないから、せめてもう少し柔らかい表情で迎えて欲しい。・・・なんて、あまりに望みが低すぎて口にするのも憚られた。 「またも何も、どうせ食糧がそろそろなくなるだろうが」 「あんまりここに来るのが頻繁だと、俺がトキワのジムトレーナー達に恨まれるんだよ」 「実際下りてこないでここに居続けるお前が悪いんだ。思う存分恨まれてくれ」 「冗談じゃない」 レッドは、見えない何かを睨むように目を眇めて、疲れたように溜め息を零す。 トレーナー達に何を言われてどんな反応を返したのか、何となく想像がついて漏れそうになった苦笑を意地で堪えてまぁがんばれよと言うだけに留め置いた。 「他人事だと思ってるだろ」 「実際他人事じゃん」 「お前のせいなのに・・・」 むすっと表情を歪めて言い返すレッド(今日は随分と表情が豊かだ。どうしたんだろう)は、グリーンがこの場所へ来る理由をどう思っているのだろう。 幼馴染だから。世話焼きだから。そんな理由でレッドのことを放っておけないんだなんて思っているのだろうか。 (むしろ、何も考えてなかったりして) 一番可能性の高い想像に少し落ち込んだりまぁそんなもんだろうなと達観してみたり、そんな心の動きの反対側で別の思考が働く。 俺が来たいから来てるんだよ。 そう口にしたら、変わるものはあるだろうか。何度も何度も想像を巡らせては、その度に結論は出なくて。 「・・・やっぱり、それなりの実力がないと来られないような場所にいるお前が悪いよ」 だから結局、口には出来ないまま。 口にするのは怖いくせに、知って欲しいと望んでもいる。知らないままでいてくれたらこのままでいられるかもと思う傍らで、全てを壊して新しい関係を築きたいとも思っている。 ・・・あぁ、なんて面倒くさい。 「?なに、グリーン」 「なんでもない」 そっと、頬に触れる。 きょとんと瞬く瞳に苦笑しながら、首を振って。 柔らかな頬を包み込みながら、想いの全てがここから流れ込んだらいいのになんて途方もないことを願った。 矛盾だらけの願い事
恋なんて一概に面倒なものだ。(という偏見) |
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