腕を組み、首を傾け、眉を寄せながら現状を憂う。 ふむ、どうしたものか。 「・・・ピカチュウ、どうしたらいいと思う?」 困りきってピカチュウに問いを投げると、ピカァと鳴いて丸っこくくりっとした瞳が心配そうに揺れた。 遡ること、一時間ほど前。 挑戦者が現れることなく、幼馴染の来訪もなく、いつものように持て余した時間をピカチュウとリザードンと共に過ごしていた、その時。 洞窟を尋ねてきたのはトレーナーではなくグリーンでもなく、寒さにガタガタと身体を震わせ顔を真っ青に染めたチコリータだった。 「どうしたの。野生じゃないよね、君」 この辺りで見かけるはずのないポケモン。それに、身体は小さくとも見た目どおりの力ではないことは一目瞭然で、力のあるトレーナーのパートナーに違いないだろうことはすぐに想像がついた。 ふらふらとした足取りでなお懸命にレッドの元へと歩いてこようとするチコリータを抱き上げて、寒さに震える身体を温める。腕の中で必死にレッドを見上げる瞳は、何処か見覚えがあるような気がした。 「俺に、何か用?」 ことりと首を傾ぐと、カタカタと小刻みに震える身体は精一杯レッドに何かを伝えようとしていて、頭の葉がふらふらと揺れながら懸命に外を指し示す。 外に何かあるのだろうか。それを伝えるために、こんなに冷たくなるほど吹雪の中を歩いてきたのだろうか。 外?と再度問いかければ、ゆらゆらと揺らぐ瞳が頷いたように見えた。 「・・・・・・これは確かに大変だ」 必死にレッドを誘導しようとするチコリータの葉に導かれて辿り着いた場所には、女の子が一人、雪に埋もれていた。 「困ったね」 小さく溜め息をついて、こんこんと眠り続けている彼女の表情を見つめながらこれからどうすべきか思案する。 このままここに寝かせておくのは、恐らく非常によろしくないことだろうことは分かっているけれど、かと言って苦しそうに眉を寄せている彼女をほいほい動かしていいものなのかどうかも、レッドには判断が出来なかった。 具合が悪いのならば薬でも何でも飲ませるべきなのだろうけれど、ここにある薬と言えばグリーンに時折差し入れてもらっているポケモン達専用の薬のみだ。 以前レッド自身が怪我をした時に薬を使用してみたらそれなりに効果が見られたから、人間にも使えるものなのだと思ったのだけれど、後々グリーンに散々怒られたことは記憶に新しい。 というか、忘れられない。 これはポケモンの薬だろう、副作用があったらどうするんだ、お前は曲がりなりにも人間だろう、云々。 あのグリーンの剣幕を思い出せば、彼女に薬を含ませるのは大変躊躇われる。 ならばやはり、方法は他にない。 「少し、動かすよ。辛いかもしれないけど、我慢してね」 目を覚ますことのない彼女にとりあえずひとつ声をかけてから、細く小さな身体を抱き起こす。 寒そうにカタカタと震えているのにその身体は驚くほど熱くて、やっぱり無為に時間を過ごさずにもっと早く下山するべきだったと後悔を覚えて、少しでも早くとまずは洞窟の外を目指した。 ・・・ところへ、 「レッド、いるかー?」 とても能天気な声が聞こえたものだから、うっかり腕に抱えた少女を落としそうになる。 「・・・何、してんの?」 「病人らしき子を、抱えてる」 「じゃなくて!あぁもういいや。何、どうしたのそいつ」 質問に対して的確な回答を示したはずなのに怒鳴ったグリーンは、けれどすぐに溜め息を零して呆れたような表情で別の問いに切り替えた。 その態度が何となく気に食わなかったけれど、ここで文句を言うその時間があまりに勿体無いために仕方なく水に流すことにして、状況をかいつまんで説明をする。 「で、とりあえずウチに運ぼうかと思って」 「馬鹿、家出同然の息子が突然帰って来たと思ったらぐったりしてる女の子連れてきちゃおばさんがビックリするだろうが」 「でも、」 「いいから、そいつ貸せ」 貸せ、と言い終えるよりも早くレッドの腕から彼女の身体を奪い去ったグリーンは、くるりと踵を返して行ってしまう。その背中を追うようにレッドもまた歩き出した瞬間に、彼女の被っていた帽子がぱさりと落ちた。 「あーあ、登って来たばっかだっつーのに」 女の子一人を軽々と担ぐグリーン。 その逞しい腕に抱えられる女の子。 ちり、と何かが焼けるような音を聞いた気がした。 やきもち?いいえ、違います 「きゃあ!!何で私の帽子が焦げてるんですか!?」 「グリーンが君を担いだ時に、丁度リザードンの尻尾にぶつかったんじゃないかな」 「つーかお前は起きて早々うるせーよ」
正真正銘やきもちです。 |
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