「あ、雨だ」 突然人の家に押し掛けて飯を寄越せと要求してきた幼馴染が、窓の外を見つめながらひどく意外そうに呟いた。 何事かと卵を割り入れたボールを抱えながらレッドに倣って外を見やれば、言葉のとおりしとしとと雨が降り始めている。それがどうした?と問いかけようと思ったところで、けれど別の声が蘇る。 そういえば姉が、夕方から雨が降るから洗濯物を取り込んでおいて欲しいとか何とか言っていたのだったか。 「・・・やっべ」 雨につられるように思い出した頼まれ事を、手遅れになる前に一刻も早く遂行せねばとボールをテーブルに置き去りにして慌てて外へ飛び出すと、まだ降り始めたばかりの雨が頭を湿らせた。 しとしとと、空から一直線に落ちていく雫。 それは、いつもと変わらない、何の変哲もないただの雨。 「レッド?」 洗濯物を抱えて戻ったグリーンの声に反応を示そうとしない幼馴染の表情からは、驚きこそ消えてはいるものの、食い入るように雨を見つめ続けている。 その横顔を見つめながら、雨がそんなに珍しいのだろうかと首を傾ぐけれど、日照り続きで雨の少ない土地でもなければ雨なんて別に、と考えたところで、ふいに思い当たった。 レッドが普段、暮らしている場所。・・・そこには 「空から降るものって、雪だけじゃなかったんだね」 ぽつりと落ちた、懐かしむような音。 馬鹿だなぁと、思った。 自然と持ち上がる唇が勝手に緩い笑みを浮かべる。今鏡を覗いたら、きっと目を覆いたくなるような顔をしているに違いないから、自分の姿が映るだろう窓の方は見ずにいよう。 「お前の世界は、狭すぎるんだよ」 「そうだね」 「雨だって、空から降るさ」 「・・・うん、そうだね」 今度はしっかりとグリーンの声に相槌を打ちながら、目を細めて楽しげに雨を見つめる幼馴染の頭をくしゃりと一度撫でて、夕飯の支度に戻る。 本当は冷蔵庫の中に大量に入っていた卵とじゃがいもやら南瓜なんかを使って、イタリアンオムレツを作るつもりでいたけれど、それはまた今度にしよう。 (少しは、ホームシックになればいいんだ) 昔を懐かしんで焦がれるように、たくさんのことを思い出すように、作るは昔懐かしいシンプルなオムライス。 空から降るものが雪だけじゃないことを思い出したように、他のことも思い出せばいい。 旅立ちの日に思った、世界はとても広いということ。 笑い合う仲間が傍にいること。 でもまずは、レッドの居場所がここにあるのだと、思い出せばいいのだ。
この後には、ケチャップ文字とかで楽しむ二人がいるのです。 |
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