普段はこちらが連絡を取ろうとしない限り殆ど音信不通のような幼馴染の、唐突に山を降りてきた第一声が「オムライスが食べたい」だった場合。 「・・・俺はさ、怒ってもいいんじゃないかと思うんだよ」 「何を?」 「お前のそのやる気の無さとかな!」 「えぇ・・・?」 人にオムライスを作れとねだっておいて、自分はピカチュウとイーブイがじゃれ合うのをぼんやりと眺めているのだから、一言苦言を呈したくなるのも道理だろう。 理不尽と思っても、きっと罰は当たらないはずだ。 別に手伝って欲しいわけではないけれど、何とも納得がいかない。 「で、今日はどうした?」 「何が?」 律義に幼馴染のリクエストに応えるべく冷蔵庫から卵を取り出しながら尋ねると、大人しく席で待っているレッドはきょとんと首を傾ぐ。 掴んだ卵を握り潰さずにいられた自分を、いっそ褒めてやりたいぐらいだ。引き攣る口唇を必死に笑みの形に歪めると、レッドがぎくりと肩を震わせた。 「なぁレッド。それはわざとなのか?それとも天然なのか?」 「嫌だなグリーン。怒らないでよ」 「頼むから怒らせないでくれよ・・・」 げんなりと溜め息を零しながら卵をこつんとフライパンに叩きつける。 「手ぶらで申し訳ないなぁとは思ったんだけど」 「は?」 「でもまぁ、当日にお祝いすることに意味があるかなって考え直して」 「待て、何の話だレッド」 「まさか、今日が何日なのかグリーンが忘れてるとは思わなかったんだ」 「・・・・・・あ」 言われてカレンダーに視線を走らせると、そこには赤いマーカーで花丸をつけられた一日がある。 毎年カレンダーを用意すると、真っ先に姉が付ける印。 その日と今日が同一であることに気付いて、そして今度はそれを正確に覚えていた幼馴染に驚愕した。(あの、新年が明けても気付かないような奴が、と思うと、その驚きは生半可ではない) 「今日でしょう、誕生日」 だから来たよ、と笑うレッドは、何処までを計算しているのだろう。 「おめでとう、グリーン」 本日は、いい夫婦の日 祝うために来ておいてその相手にオムライス作れとか言い出すのはどうなんだとか、言いたいことなら他にもあったけれど。 そんなものは全部どうでもいいことなんだろう。 「おう、サンキュー」 理由が何であれ、傍にいてくれるのなら。
グリーンさんおめでとう! |
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