あぁ、困ったなぁ。 本日何度目かになる溜め息を深々と零して、目の前に積み上げられた書類の山を見上げる。仕事が終わらない。午後はジムへの挑戦者が来ることになっているからそれまでにどうにかしてこの山を減らしたい(と言うより、希望としては無くしたい)のだが、どうにもモチベーションが上がらない。 デスクワークが嫌いなわけではないけれど、長時間拘束されればさすがに嫌気も差す。もういっそのことサボってしまおうか、なんて堕落的なことをちらっと考えたところへガチャリと部屋の扉が開く音がして、微妙な後ろめたさに慌てて視線を下げた。 そんなこと考えてません。 サボろうなんてそんなことは、断じて考えてません。 「リーダー、仕事をさぼるのは良くないですよ」 「そりゃ分かって・・・」 部屋に入ると同時に掛けられた声に反射的に言葉を返しながら、あれ?と思う。 最近行ってないなぁ、なんてそんなことばっかり考えてたから、幻聴でも聞こえるようになったんだろうか。 それは重症だなぁと思いながらバレバレでも何でも仕事をしているフリをしようと落とした視線を持ち上げれば、そこには。 「・・・・・・。お前、何してんの・・・?」 や、と言わんばかりに片手を挙げていたのは、見紛うはずもなく幼馴染本人。 肩に乗っているピカチュウが「ピカ!」とレッドに倣って片手を挙げているのが微笑ましい。いやいやそういうことではなくて。 「暇だから、グリーンがちゃんと仕事してるか見に来た」 「・・・・・・あぁ、そう」 そりゃあんなところに日がな一日いれば暇を持て余しもするのだろうが、今更になってそんなことを言い出すのが何だかおかしくて、笑えばいいのか呆れればいいのか迷ってたら微妙な表情が出来上がる。 もう、どっちでもいいや。 「すぐ帰るわけじゃないよな?」 「ん。今日はグリーンとこに泊めて」 「おう」 軽く頷きながら姉さんに連絡しとくよとつけ加えた。 レッドを見た瞬間は驚きばかりだった感情の波に、今更のようにじわりと別の色が混じり合う。 「じゃあまあ、いっちょこの山片付けっか!」 「がんばれ、グリーン」 にこりと笑ったレッドは、事務室の中央にどーんと据え置かれたソファに腰掛けて、ピカチュウと戯れ始める。 その姿を見ていると、さっきまでの自分がまるで嘘のように書類へ手が伸びた。早く片付けてしまおう。午後のバトルの前に、レッドとバトルをするのもいいかもしれない。対レッド用のポケモン達は生憎今手元にいないけれど、ポケモンセンターが近いからその辺に問題はないだろう。 あぁ、でも。 (レッドが下りて来るなんて、久し振りだしなぁ) かりかりと書類の上でペンを走らせながら、どうしようかなぁとぼんやり考える。 バトルをするでもいいし、少しゆっくり話すのもいい。まぁ何にせよ、全てはこの仕事が片付いてからの話ではあるけれど、今なら終わらせられる気がするからきっと大丈夫。 そうしたらレッドに、どうしたい?と問いかけてみよう。どんな答えが返ってくるかは分からないけれど、何でもいいなぁと思った。 レッドがそこにいる、それだけで十分。それだけで、満たされる。 だから別に、何だっていい。 ただ会いたかった。 顔が見たかった。 結局は、それだけなんだ。
レッドに会いたくなって、仕事が進まなかったグリーンさんのお話。 |
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