「あー違う。x入れるのそこじゃなくて、一つ隣」 「・・・・・・あぁ」 昼休みの屋上。本来立ち入り禁止のその場所には、今現在グリーンとレッドの二人がいる。随分前にレッドが『偶然鍵を壊してしまった』その日から、二人だけの秘密ということで勝手に拝借しているのだ。 日当たり良好、走る風も心地良い。そんな絶好の昼寝スポットで悲しきかな数学の問題集など開かねばならないのは、偏に明日からテスト期間という現実が目前に迫っているから。 もっと言うなら、グリーンの隣に座って腿に問題集を乗せてペンをひた走らせている幼馴染が、普段の授業を全く真面目に取り組もうとしないからだった。 「次の問題は今の公式応用すれば解けるから」 「ん、分かった」 不真面目なわけではない。 出来ないわけでもない。 ツケが後に回ってくると分かっているくせに、ただやる気がないだけ。 本人曰く、教科書を開くまではいいのだけれど、開いた瞬間にやる気が失せるのだそうだ。 なんとも勿体無い話だと思うのだけれど、当人がまるで聞く耳を持とうとしないのだから周りにはどうすることも出来ない話だ。 (それにしても、また随分甘そうなもん飲んでんなぁ・・・) ノートを押さえている手が、時折グリーンとは逆隣から連れ帰ってくる桃色の紙パックジュース。 ペンを休めるその度に口に含んでこくりと嚥下しては、ほうと吐き出される溜め息がふわりと甘く香って、鼻腔をくすぐった。 匂いだけでも相当甘いだろうことが伺えるその飲み物は、レッドの持参物ではない。後輩にもらったのだと言っていたそれは、恐らく女子にもらったものだろう。 後輩にもらった、としか聞かなかったけれど、多分女子。 野郎が野郎にいちごミルクの紙パックを渡す光景などあまりにシュール過ぎて想像もしたくない。 ・・・それなのに、そのいちごミルクを飲む高校生男子をかわいいと思ってしまうのは、何故なのだろうか。 「グリーン」 「へ?」 いちごミルクを吸い上げる口唇をじっと見つめていたら、突然呼びかけられてはっと顔をあげる。 「そんなにじっと見られても、困るんだけど」 「・・・あ、ワリ」 「飲みたいならそう言えばいいのに」 「は?」 勉強教えてくれたからお礼に全部あげると差し出されて、反射的に受け取ってしまった桃色の紙パック。 飲みたいとは思わない。けれど、つき返すわけにもいかない。 返すには、『飲みたい』以外にこの紙パックを見つめていた理由が必要になる。 「グリーンが甘いもの飲みたがるなんて珍しいね」 「・・・まぁ、たまにはな」 まさか、ジュースの元持ち主に嫉妬してましたなんて、言えるわけもなかった。 (あっま・・・) 口の中に広がる甘さは酷く懐かしく、とても優しい味で。 自分の抱いた醜い感情が、何だか申し訳なくなった。
グリーンさんがあまりに学ラン似合わないような気がしたので、多分二人はブレザーを着ているのだと思います。 |
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