(・・・まだまだ足りないってことね) 疲れ果ててしまったポケモンをボールに戻して、ごめんねと声をかける。 また、負けてしまった。 シロガネ山の頂で始めたポケモンバトルは、相手の手持ちを四匹破ったけれど結局コトネの敗北で勝負がついた。 何度も挑んでいるけれど、どうしても勝利を収めることが出来ない。 まさか、こんなに強い人がこんなところにいるなんて夢にも思わなかった。ジョウトのジムを制覇して四天王も破り、カントーのジムにも挑んで勝ち取った強者の称号。 それでも、勝てない。 コトネに足りないものは、あと何だろうか。経験の差?それとも年月を経ればもっと強くなれるのだろうか。 (どうしたら、あんな風になれるんだろう) コトネから少し離れた場所に座り込んでいるレッドは、柔らかな表情で労うようにピカチュウを撫でている。 バトルの時に見せるとても冷たいのに熱い不思議な鋭さはなりを潜めていて、初めは本当にそのギャップに驚いたけれど、あぁ優しい人なんだな、と思った。彼はとても、ポケモンに優しい人だ。 そして、自分に厳しい人。 「・・・レッドさんは、どうしてこんな場所でずっと一人で戦えるんですか?」 「?」 きょとんとした顔で傾く頭。肩に乗っているピカチュウが一緒に首を傾げていて、あぁそうか彼は『一人』だなんて思ったことがないんだと気付く。 たった一人でこの冷えきった場所にずっと佇んで挑戦者を待つなんて、コトネには考えられないことだと思っていた。けれどそれは、間違っていたのだ。 「すみませんやっぱり今の、」 「帰りたい場所があるから」 「・・・え?」 慌てて取り消そうとしたところへ差し出された答え。そして、その瞬間にほんの一瞬だけ見えた表情。 今のは、何だ。 「レッドさん、今のどういう」 「そろそろ下山した方がいい。ポケモンセンターに早く連れて行ってあげなよ」 「あ!」 必要な言葉だけを空気に乗せると、くるりと背中を向けて行ってしまう。 本当は追いかけてでも聞いてみたい話だったけれど、レッドの言うことは尤もなことで。 「次は、勝ってみせますから!」 大きく声を張り上げて、ぺこりと一度頭を下げた。 振り返ることなくひらひらと手を振って返してくれたレッドの帰りたい場所が何処なのかは知らない。知らないけれど、そこはきっととても大切な場所なのだろうことぐらいは分かったから、よしとしよう。 (おうち、帰ってみようかな) 一瞬だけだったけれど、初めて見たポケモン以外に向ける笑顔。 だからきっとそこは、とても大切な場所なのだ。 君に会いたくなりました。 『で、次はいつ帰ってくんの?』 「今から」 『・・・・・・は?』
BGM:果て無きモノローグ(←!?) |
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