一体誰が「シロガネ山を下りない」なんて言ったんだろう。 いい加減山から下りて来い、と会う人会う人に言われるたびにそう思う。別に必要があれば下山ぐらいするし、下山したくないと誰に吹聴しているわけでもない。 というのに度々下山しろと言われてしまうのは、実際に山を下りることがあまりに少ないからだ。 それは、分かっているのだけれど。 (その必要がないから、なんだけどな) そろそろ食料がなくなるなぁと思う頃に大量の食料を持った幼馴染が現れ、傷薬とか身の回りのものがなくなるなぁと思う頃に必要なものを抱えた幼馴染が現れる。 何の連絡も取っていないのに、驚くほど丁度良いタイミングで。 エスパーなんじゃなかろうかと、本気で疑いたくなるほどに。 グリーンはいつだってレッドがぼんやりと思い描いたことを何も聞かずに叶えてくれた。それが幼馴染というものなのだろうかとも思ったけれど、そうするとレッドもグリーンの望みを叶えていなければおかしいから、やはりグリーンは特別に違いないのだろう。 だって、最近グリーンに会ってないなぁ来ないかなぁとぼんやり思っていたら、「よぉ」なんて片手を上げながら来てくれたのだ。 用事なんて、ないのに。 (こういうの、何て言うんだっけ・・・) 何も言わないのに望みを叶えてくれて、口にはしないのに全てを分かってくれる。 正しくそんな感じの言葉があったような気がするのだけれど、何だったか。 「至れり尽くせり、かな・・・」 「うん?」 「何でもない」 しばらく悩んでようやく飛び出た単語は何だかニュアンスが違うような気がしたのだけれど、ことんと首を傾げたグリーンを見たら何だかあぁ別に何でもいいや、と思ってしまった。 正しくは、以心伝心。 何も知らないはずの君が、下山する理由を全て奪ってしまうんです。
ある種至れり尽くせり。間違っては、いない。 |
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