「行く当てがないなら、おいで」 ピカチュウと出逢って一緒に歩こうと手を伸ばして、それから。 度々出会うはずのない場所で、出会うはずのないポケモンに出会った。 その全てに「一緒に来ないか」と声をかけたのは、初めて生きるための糧を見つけたと思ったからだ。 触れられる優しさがあるのなら、その命に寄り添いたい。 たったひとつ、ようやく見つけたこの世界にいるための理由。 たとえ時折見かける幼馴染がレッドを見つけなくても、彼らが傍にいてくれたら耐えられた。 それはレッドにとって、とても重要なことだった。
みなしごみらい
「・・・真っ白」 希望と呼ぶにはあまりに小さすぎる光を必死に追って歩き続けて最後に辿り着いたのは、音のない世界。 時折びゅうっと吹く風に揺られて木々がざわめく音の他に、まるで音源がない。白と黒と灰色があるから、無色の世界ではないのだろうけれど、鮮やかとはあまりに言い難いその場所はレッドの目にとても寂しく映る。 ぼんやりとその場に立ち尽くしてしばらくの後、あぁそうか、と他人事のように理解した。 ここが終わりなんだ、と。 (そっか。終わるんだ・・・) 冒険と呼ぶにはあまりにお粗末過ぎる旅にもしっかり終わりは来るのだと思うと、おかしくて涙が出そうになる。 レッドが今立ち尽くすこの場所は、雪山だ。 降り止むことのない見るからに冷たそうな雪がしんしんと積もっているのに、半袖のシャツから伸びる腕は少しも寒さを感じない。 半端に世界に触れられるだけのレッドでは、やはり存在することを許されていないということなのだろうか。 この期に及んで希望を持つつもりなどなかったけれど、やっぱり悲しい。 「終わっちゃったね。これから、どうしようか」 肩にちょこんと乗っているピカチュウに問いかけて首を傾ぐ。その問いかけが何の意味も成さないことは分かっていた。どうしようも何も、どうしようもないのだから。 自分の居場所が分からなくて、何処に行ってもレッドは不在のまま。いるのに。ここにいるのに。どうして誰も気付いてくれないんだろう。そんな憤りに似た疑問も、随分遠くに置いてきてしまったように思う。 本当に、これからどうしたらいいんだろう。 自分ではとうとう見つけられなかった、その答え。 誰でも良いから教えて欲しかった。 することもなくただぼんやりと灰色の空を眺め続けて、一体どれぐらいの時間が過ぎたのだろう。 ふいにさくさくと雪を踏み締める音が聞こえてくるりと振り返ると、少し下の方を少年が歩いているのが見えた。 山に登ってこの場所に落ち着くまで一度も人を見かけなかったから、ここにはポケモンしかいないのかもしれないと思い始めていたのだけれど、どうやらちゃんと人も登る山らしい。 「こんなところで、何してんですかー?」 「?」 必死に山道を登っている突然の来訪者は、ざくざくと雪を踏み締めながらレッドの方へ一直線に向かってくる。 この先は行き止まりだというのに、彼は一体何をしようとしているのだろう。そもそも、誰に声をかけているつもりなのだろうか。 「トレーナーさんですよね?」 レッドから少し離れた場所に立ち止まった少年は真っ直ぐレッドを見つめて、ことりと首を傾いだ。視線が、絡む。 驚きのあまり声が出なかった。 今までレッドを見つけてくれたのはポケモン達だけで、人々の瞳は相変わらずレッドを通り過ぎていくのみ。だというのに、目の前の少年は今、確かにレッドに話しかけている。 レッドの他に誰もいないこの場所で、トレーナーですか、と。 突然の出来事に、どうしたらいいのか分からなくなる。ずっと望んでいたことのひとつが叶ったのに、それに対する感情はぐらぐら揺れたまま定まらない。 彼は、誰なんだろう。本当にレッドの姿が見えているのだろうか。 「あの、僕の声聞こえてますか・・・?」 声が返らないことに不安を覚えたらしい彼が、再び少年が再びレッドに声をかけた。 それでも反応出来ずにいるレッドを見たピカチュウが、とすんと肩から降りて庇うようにレッドの前に出る。心配を、してくれたのだろう。 けれどそれを別の意味に取ったらしい少年は、少し驚いた顔をした後ににっと口唇を持ち上げて、キラキラした瞳でこう言った。 「話はバトルでってことですか。いいですね、それ」
ぐり・・・れ・・・・・・・段々自信がなくなってきた(笑 |
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