ふいに鼓膜を震わせた、誰かの笑い声。 引きずられるように意識がふわりと浮上する。誰の笑い声だろうと考えようとして、けれど考えるまでもなく一瞬で分かってしまった。 特徴があるとかそういうのではなくて、多分とても耳に馴染んでいるから間違うことがないのだろう。 「グリーン・・・?」 ゆっくり開けた瞳は、辺りが真っ暗で何も映せない。まだ夜なのだろうか。眠る前の記憶を呼び起こすことが出来なくてここが何処なのかもよく分からないけれど、起きたばかりだから頭が働かないだけだろう。 それよりも、近くにいるはずの幼馴染の方が気になった。 確かにレッドの耳に笑い声が届いたのだから、近くにいるはずで。それなのに暗闇の中にその気配が感じられない。 何処にいるのだろう。 呼んでも返事がないということは、少し距離があるのだろうか。彼の笑い声はあんなにはっきり聞こえたというのに、何だかおかしな話だ。 「・・・・・・あれ、は・・・?」 ふと視界の端を掠めた、小さな光。 何だろうと考えるよりも前に、足は見つけた光に吸い寄せられるように動き出す。 どくどくと心臓が早鐘を打ち始めて、歩いて向かうだけでは拭いきれない不安から逃げるようにいつの間にか走り出していた。
みなしごみらい
小さかった光は徐々に大きくなり、やがて霧散する。 光が落ち着いたことを肌で感じて、必死に動かしていた足を止め、眩しさに耐えきれずに閉じていた瞳を開けば現れる、懐かしい景色。 「・・・・・・マサラ・・・?」 ざわり、と胸の奥がざわめく。 おかしい。 理由が分からないにしても随分前に旅立った懐かしい故郷にいるのだから、感慨深いはずだ。 それなのに、どうしてこんなに妙な気持ちになるのだろう。未だに目覚める前のことを思い出せないし、もしかすると何処か具合でも悪いのかもしれない。 (とりあえず一回家に帰ろうかな・・・) 町の入り口にいつまでも佇んだままというのも邪魔だろうし、折角ここまで来たのだから一度ぐらい母親に顔を見せるべきだろう。 そう考えて、うんそうしようと一歩足を踏み出しかけたところで、オーキド博士の研究所から少年が出てくるのが見えた。小さめのリュックを背負い、赤い帽子を被った少年。 年の頃は、丁度レッドが旅立った年ぐらいだろうか。 (・・・・・・?) あんな子近くに住んでたっけ、と考えてみるけれど、記憶の中には存在しない。 旅に出ている間に越してきたとか、そういうことだろうか。 隣町から遊びに来ていると言うには何だか雰囲気が馴染んでいるようにも見えて、根拠は全くなかったけれどあの子はこの町の子なのだろうと思った。 「ねぇ、君」 研究所の方から歩いてくる少年と、町の入り口から中央へ向かうレッドとの距離は、あっという間に埋まる。それに元々あまり雑音のない町だから、この近さで声が届かないはずもない。 けれど少年は、すっとレッドの横を通り過ぎていく。 「?」 声をかけられているのが自分だと気付いていないのだろうか。 振り返ることなくすたすたと歩いていってしまう背中を見送りながらまぁいいかと結論付けようとしたのだけれど、上手く飲み込めない何かが喉で引っかかる。 ざわざわと騒ぐ胸が考えたくないと叫ぶのは、何故だ。 「待てよレッド!」 「グリーン・・・?」 背後から聞こえた懐かしい声。 ゆっくり振り返ると、幼馴染が若干不機嫌そうに研究所から飛び出して駆けてくるところだった。 「どうし」 「待てっつってんだろ!」 レッドの声を遮るように、グリーンは繰り返す。・・・否、聞こえていないのだ。グリーンには、レッドの声が聞こえていない。 グリーンの視線はレッドの向こう、先ほどすれ違った少年へ向けられていた。 「なに」 「さっきのは、ちょっと油断しただけなんだからな!今度は絶対に負けないぜ!」 言葉少なな少年と、それに構わず笑う少年が、並んで歩いていく。レッドには二人の背を視線で追うことしか出来ない。 「なんだ、これ」 町の真ん中に、立ち尽くす。 通りかかる人はいても、レッドに視線を向けることはない。気付きも、しない。 何処に立っていようと座っていようと、邪魔になるはずもなかった。『誰もレッドに気付かない』のだから。 「なんなんだ、これ・・・!」 記憶にある姿よりも幼く見える幼馴染と、始まりのあの日のレッドと同じ年頃ぐらいのレッドと呼ばれていた少年。 あっと言う間にレッドの視界から消えてしまった、二人の背中。 過去の世界か何かだろうかとも、一瞬考えた。けれど、違う。ここは過去の世界などではない。だって、あれは (『俺』じゃ、ない・・・) じゃあここは、何処で ここにいる俺は、だれなんだ・・・?
リメレッドさんとレッド様のお話を、一度書いてみたかったんです。(だがしかしグリレなのだと言い張りたい、そんなお年頃/ぇ) |
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